2022.5.2
何を成したかではなく、どう取り組んだかを。その生き様のようなものをだれかに伝えられたらいい。(栢木さん 後編)
メイクアップ・アーティストとして幅広い視点から女性像を提案し、個性を引き出し、似合わせることを得意として、ファッション、音楽、広告など、幅広く活動されている栢木さん。後編では、肺ガンを克服した今の栢木さんと、今後の展望について語っていただきます。
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@kayakisusumu
≫ここから始まったら何でも出来そう。本当に、お金じゃなくて、楽しくて、夢しか持ってなくて。(栢木さん 前編)
◆ 生死の境を体験されて、人生観に変化があったのですね?
◇ 病気になって、これまでの自分を振り返ることができました。高校進学のときに家を出て、専門学校やヘアサロンでマジメに取り組み、ニューヨークへ行き・・・、自分の道を自分で選んできたようで、実は現状から逃げていただけだったと気づきました。
実家に不満があるからそこから逃げた、友達ができないからマジメに取り組んだ、美容師のライバルから逃げ日本から逃げた。でも、家庭を持って病気になった今回は、どこにも逃げられない。
今から思えば本当にありがたいことに、病気になれた。なんで上手くいかないのか、なんで病気になったのか、なんで打開策を見つけることができないのか、どうして素直になれないのか、考えることができた。
そして、問題の根っ子がどこにあったのか気づいた。幼少期に木曽の実家でなんとなくモヤモヤして不満だったのは、ちゃんと叱ってもらえなかったから。問題が起きたときの対処法を教えられなかった。だから逃げることしかできない。
人生なんてつらくて当たり前。這いつくばって生きていくしかない。あとは、その生き様のようなものをだれかに伝えられたらいい。何を成したかではなく、どう取り組んだかを。身分相応に。そのような見方ができるようになりました。そして、それは心持ちひとつでできることだと。
◆ 病気になる前と後とでは大きく変わったわけですが、結婚されたのは病気になる前でしたね。奥さんは何と言っているのですか?
◇ やっとまともになれたね、と(笑)。
自分でも本当にやっとまともになれたと思います。
◆ 病気になられたときは35歳で、奥さんと、3歳と5歳のふたりのお子さん。奥さんにしてみたら、これからどうすればいいのよ、と思いますよね。よくついてきてくれましたね。
◇ そうなんです。奥さんが一番大変だった。患者本人は楽なんです。悲劇に浸っていればいいだけだから。一番きついのは側にいる人。本当に大変でした。奥さんは大丈夫なのかと心配でした。
奥さんは「あなたは大丈夫」と言うのです。僕は守られている。ご先祖様に守られている。具体的に何かがあるわけではないですが、なんとなくそう感じます。
◆ 病気もひとつのきっかけでしょうけれど、それよりもむしろ、奥さんの導きによって変わることができたのではないですか?
◇ はい、まさにその通りです。奥さんと知り合えた。子供もできて家庭が整った。奥さんと出会えたことで、それだけで自分はもう大丈夫。ひとつ成し遂げることができた。
◆ 病気の前と後とではメイクの考え方も変わりましたか?
◇ 変わりました。病気の前は自己表現、アーティスティックなものと思っていました。今は、自分なんてどうでもいい。求められていることに対して誠実に誠意を持って、目の前の女性への奉仕です。何か気づきをもたらすというのはあると思いますが。
◆ 栢木さんはメイク作品を木版画やコラージュをプリントしたTシャツなどの形にされていますね。これはご自身にとって、どういうものなのですか?
◇ メイクが形に残るのは写真なのです。でも、写真はフォトグラファーのクレジットになります。メイクアップ・アーティストの作品としては残らない。なんかもったいないなと思うのです。日の目に当てたい、作品として成仏させたい、という気持ちがあります。もちろん、メイクの練習や新しいメイクへの挑戦のために作品を作るというのが元にありますが。
◆ 栢木さんが「作品」とおっしゃるものは、何を指してるのですか?
◇ 自分の1つの打ち込めるものと言えばいいでしょうか。集中して取り組んだ時間の証(あかし)というか。自己表現というよりも、人間の特権、生きている証という感じでしょうか。
◆ そのような「作品」をだれに一番見せたいですか? 何を伝えたいですか?
◇ 子供です。そこまでやらないとできないんだと。今はイラストにしてもパソコンで簡単に作れる。でも、アナログでやる尊さ、人間っぽく、こだわってやることに価値があるんだということを。
◆ 子供の次に見せたい人は?
◇ アートディレクターなど周りで仕事している仲間。同志として価値観に純粋に共感して欲しい、いいなと思ってもらいたい。感情を揺さぶらせることができたら、その人の隙間に入り込めたかなと。
今の世の中には消費されるものが多いですが、そこに手間暇かけたものがあって、立ち止まって見てくれたらいいなという感じです。一生懸命ちゃんとやっている自分を見つけて欲しいというのもあります。
◆ 今教えている若い人達にも見せたい?
◇ そうですね、見てもらいたいです。消費して終わるんじゃなくて、手間暇かけて、そこまでやってたのって思ってくれたら。そういうものが繋がっていけばいいなと思います。
人が生きる意味って子孫を残すこと、つまり、伝承させること、繋げるってこと。僕も自分でやってみて、昔の人はどこまでやってたんだよ、手間暇かけてそこまでやったんだ、すごく尊いな、そうやって文化ってできてきたんだな、と感じます。消費して終わるのではなくて、そういう想いが繋がっていけばいいなと思っています。だから、本当は「作品」という物じゃなくてもいいのです。
◆ 栢木さんの文化の継承に HANA ORGANIC が少しでもお役に立てたら、もしも何かで一緒にできたら、と思っています。何らかの形で実現できそうなイメージが湧いたら教えてください!
本日は長時間のインタビューにお付き合いくださり、どうもありがとうございました。
◇ ありがとうございました。
栢木さんとは、昨年の夏頃にご縁をいただき、女性の美しさを引き出すラインや色、作品に心を動かされました。
栢木さんの思いや経験と、HANA ORGAINIC の思いを共有していく中で、何か響き合うものを感じ、更に深くお話しをお伺いしたいという気持ちが強くなり実現したインタビュー。
栢木さんのメイクや作品の裏には、深く熱い想いがありました。
これからの栢木さんのご活躍に大注目です!
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最後に、読者のみなさまや、メイクスクールの生徒のみなさまへ
一言メッセージをお願いします。
日々丁寧に、誠実に生活したいですね!
誰かが必ずあなたを見てくれていますよ。
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